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アカッバドーラ 5

辺り一面の闇は深くなり、ロンの寝ていた場所を中心に、多くの生きるもの達が
息を潜めた空気が、濃くなっていく。

いつの間にか、全身を黒いベールで覆った風変わりな店主は、
ブツブツ独り言のように何かを唱えている。

モモとロンを乗せたバルーミの重い引きずるようなエンジンの音が少しずつ近ずいてくる。

モモに助けられて、ヨロヨロとよろけながら車から降りたロンは、
風変わりな店主が敷いたシーツの上に、崩れ落ちた。

「ロン。ちゃんとお別れを告げられた?ありがとうって言えたのね?」

もう頭を上げることもできず、喉の奥から搾り出すように
うぅ~~とロンが返事をする。

「モモ、バルーミ。遠くまでお疲れ様。ロンはちゃんと会いたい人に逢えたのね」

無言のまま モモがコックリと頷く。

「じゃ・・後は 私がするから、あなたたちは、コクリコの花たちの側で待っていて頂戴」


「ロン。ロン。聞こえる?もう一度、このケーキを一口食べて頂戴。
 ロン。あなたは、ここでも誰にも愛されなかったわけじゃないのよ。あなたを、
 非道なやつ等から守ることは出来なくても、寄り添ってきたものたちがちゃんといたのよ。
 あなたが、ここでどうやって生きてきたかを話してくれるもの達がいるの。
 あなたは、いつも誰かに愛されていたのよ。わかるわね?
 さぁ。おねぇちゃんとよっちゃんと一緒で、楽しかった頃、あなたが一番
 楽しかった時の事を思い出して・・。あなたが一番帰りたい日の事をね。
 ロン。準備は出来ているわね?・・・もう逝けるわね?」


風変わりな店主が、ロンの背中に手を置きながらそれを囁いている間に、
ロンの顔から少しずつ苦痛が消えていき、痛みにゆがんでいた顔は
少しずつ穏やかな子犬の頃の寝顔に帰っていった。


それを見届けた後、ティチィア・ライラは、ロンの身体に覆いかぶさるようにして
ロンの頭をそっと片手で持ち上げた後、静かに、自分の胸に押し付けグッと両手に
力を込めた。

20秒・・30秒・・1分。2分。
ティチィア・ライラが、ロンの頭を胸の中に押し当てている間、コクリコ達や、
この場所でロンと寄り添うように暮らしてきたものたちが、一心に祈り続けてる。

・・・3分。

ぐったりとしたロンを、また静かに横たえ、

「さぁ・・終わったわ」

その言葉で、重い緊張感のある沈黙の中にいたコクリコの長老が
ホッとしたように・・深々と頭を下げながら、

「ティチィア・ライラ。ありがとうございました。どうぞ、お気をつけてお帰りください」

「ありがとうございます、長老殿。
 ロンの最後の言葉は、あなたたちにもありがとう。と言うことでした。
 それと・・あなた方のお仲間で、瀕死の者たちのいる場所に埋めて欲しいという
 事でしたよ、今すぐに、お仲間の役には立てなくとも、自分の身体が、来年、再来年には、
 あなたたちの栄養になるだろうからって・・・。それしかお返しする物は何もないからと、
 それが、ロンの最後の望みでしたよ」

ティチィア・ライラが、そう話終わると、コクリコの花の群生から聞こえていた
すすり泣きが いっそう大きくなっていった。

「泣いてはいけませんよ。あの子が望んでいたんです。
 あの子は、大好きな主人に捨てられた事をうらんでもいなかった。捨てられた事は悲しくても、
 それを理解する事はできなくても、主人が自分を愛してくれていた事を、
 忘れないでいてくれた事を確認して、安らかに逝けたんです。
 ここで暮らした日々の事も、あなたたちが、いつもいてくれたから不幸ではなかったんですよ。
 あなたたちにもありがとう、って、それが、あなたたちの下に埋めて欲しいと言う
 あの子の感謝の気持ちなんですからね」

「ティチィア・ライラ。おっしゃる通りだが、おっしゃる通りには違いないが、
 私の仲間が泣いているのは、悲しいよりも悔しいからなんです。
 私は、この年になっても、こういう理不尽をみるたびに、怒りがこみ上げてくるんです。
 なぜ、いつも、力や声の大きい奴ばかりが好き勝手できるのか。
 ロンや仲間をこんな目にあわせた奴らを同じ目にあわせてうやりたい。
 が・・私たちには何も出来んのが、悔しい。それが情けない」


「長老殿。お気持ちはよくわかります。でも どうすることもできないんです。
 何よりも、私は、あなたのお仲間の瀕死のもの達を助ける力がないのがつらい。
 いえ・・あなたのお仲間だけでなく、ロンでも、他の誰であっても、私には、
 治す力はない。それはご存知ですよね?
 もし、どんな不治の病の者であっても、私の力で治すことが出来るのであれば、どんなにいいでしょう。
 でもね。それは、してはいけない事なんです。生きるものの世界の掟を変える事は、誰にも出来ない。
 
 誰にでも生まれた時から、自分が望む、望まないに限らず、持たされている役目というものがあります。
 人によってそれが重いものもあれば、軽いものもある。それも誰も、自分では決められないんです。
 どんなに理不尽な事柄でも、受け入れていくしかない事柄が、世の中には本当に多くてロンのような
 運命を背負わされ子や人たちが、本当に大勢います。長く世の中を見てこられた長老殿には
 言うまでもない事ですが・・。
 
 私は、生きる誰かを救えはしない。どんなにそれをしたくても、その力はないんです。
 私が出来る唯一の事は、ほんの少し最後の時の苦痛を和らげる事と、自然界の時間を少しだけ早める事。
 それが、最後の、 アカッバドーラ として生を受けた私の役目なんですから・・。」





cfghjk


追記:AgrigentoのNさまコメント(メッセージ)ありがとうございました。
ご期待に添えなくてしかも、コメント(メッセージ)いただきましたのと
同時くらいに、5をUPしてしまったので、こういう結果になっております。


シチリアにも暫く前まで、色々とコミュニティ以外へは門外不出の
伝統や秘め事があったのではないかと思いますが、サルデーニャにも
そういったものが多く残っており、また未だに解明のできていない
ものなどがあるんですが、

このアカッバドーラ(Accabadora)も、ほんの50年程前まで、サルデーニャ内部の
小さな集落に、実際にあった事柄(実在した人たち)だったんです。

アカッバドーラというのは、もともとはスペイン語からきているんですが、
英語ではterminator(ターミネーター)要は、始末屋という意味)
貧しくて、病院にも行けない寝たきりの人や、末期症状で苦しむ患者を持つ家族から
真夜中 ひそかに要請を受けて、誰にも見られないように真っ黒なマントを羽織、
病人のいる家で、人払いをした後、薬草で作った睡眠薬を飲ませるか、香りを嗅がせて
眠らせて、その後でクッションをかぶせ窒息死させたり、特殊な、木ずちのようなもので、
首の後ろの骨や脳天を一撃するのが、一般的な始末の方法だったようです。
その後の、村医者の診断は、必ず<心臓麻痺>もしくは<老衰>という事で・・

血の繋がりではなく、コミュニティの中で選ばれる女性のみが継承する役目。

今でいう<安楽死>を請け負う ある意味、最後の救いとして
貧しい村々に存在していた人たちなんです。

残念ながら、ご希望には添えませんでしたが、、、

長い年月の間に、私が、見聞きしたり、また文献を読んだりして学んだ
サルデーニャの風習なども入れていきながら、<動物遺棄>や<安楽死>について
自分の思うことを書いていきたいと思います。


(相模原で悲惨な事件がありました。<安楽死> 再び考えさせられた問題でした。)
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Comment - 10

Mon
2013.05.20
20:29

すっとこ #O.IV57GY

URL

不思議な世界を。

なんとも不思議な味わいの物語。
いったいどこへ着地するのかとドキドキしながら
読み終えました。

アカッバドーラ、実在したお役目だったのですね。
貧しく、苦しい暮らしの人々の最後の希望、
最後に見る救済の光を担うお役目。

イタリアの話、と思いながら読んでましたが
「よっちゃん」が出てくるのであれ?日本人家族?
とも思ったり。

イタリアに旅行した時に咲いていた線路わきの野生コクリコ。
真っ赤な色が目を射るごとくでありました。
そんなことも思い出しました。

またこのような物語を切に所望します!

Edit | Reply | 
Mon
2013.05.20
20:42

そにょ #tb1AVaRI

URL

読ませていただきましたよ。
初めは夢物語の始まりだわ・・と思っていましたが
思わぬ方向への展開で
実在したアカッバドーラという仕事人のお話だったのですね。
ねぇ 私の母は病院でチューブに繋がれたまま逝ってしまったのよ。
私はそれを思い出すだけでまだ泣ける。
現代のアカッバドーラは白衣を着ていて欲しいわ。
逝ってしまった者も逝かせてしまった者も感謝するのは
今も昔も同じじゃない?

この先伏線にサルデーニャの風習などもあるそうで
そんなところも楽しみです。
おどろおどろしい空気もあるけれど
根底には愛があるし
ちゃんとついていきますから どこまでも書いちゃって~。

Edit | Reply | 
Mon
2013.05.20
20:50

amida #.FHqww6E

URL

あはは・・・すっとこさんらし~(人称名詞のみ違いますが、こういうコメントいただましたね~。そうです。あなたも、すっかりホッタラカシのお一人でございました。すみません)のすっとこさん

で・・何が、すっとこさんらし~のかいうと、終わってないです。
終わったの、プロローグ。これから、本番に入りますよ~。
場所は、どことは特定してないです。ただし、住所は決まってます。

妖怪県 物の怪郡 トトロ村 3丁目でございます。



まだまだモモ子さんの活躍を楽しみにしてくださいね~。







Edit | Reply | 
Mon
2013.05.20
21:32

amida #.FHqww6E

URL

ふふ~~アミダの従姉妹白雪さまは、夜叉が池からお出ましになる事はできんが、
あたくし、アミダはどこにでも行けるのだ。
が、残念ながら、富姫さまのような雲をあやつる事はできんので、ボロボロのFIAT500を
ブンブン運転するのだ~。夢物語を書くだけの力量はあたし、あみだにはないので、
世知辛い世の中を、なまなま~~で書くのだ~のそにょそにょちゃん。



自分のこと、自分の身内のこと、それぞれ別であっても、憎しみからではなく、
愛しているからこそ、苦しみから救われるために、誰かが、そっと夜中に
首をしめてくれたら・・と、思ったことがない人って、ある年齢になったら、
少ないんじゃないかしらね?

それが、書きたいのだよ~~ん。

また読んでね~。ご意見、アドバイス、常時求む~!ざんす。

Edit | Reply | 
Fri
2016.08.05
15:59

こすもす #B7q/.fmY

URL

ちょっとだけ読んですぐコメント書いてすいません。不快ストーリーだったのですね。
もう一度きちんと読ませていただきます。

Edit | Reply | 
Sun
2016.08.07
18:08

amida #.FHqww6E

URL

こすんもすん

<不快ストーリー>っつて、、、
そこまで、ずばり言わんでも、、あはは、、
が、多分、こすもすさんの言葉の選び方から
考えると、ほんとーは、<深い>と書きたくての変換ミス。
なんじゃ、、なかろうかとも思うんですが、
はからずして、核心付いてくれてます。

私がもっとも好きな絵本作家は、
<エドワード ゴーリー>でしてね。
彼の世界観が憧れの作風なのでした。ふふっ、、

世の中は、こういうものなんだよーー。
で、、子供はどうでもよくても、猫には危害を加えないというのも
素敵。なの。。

Edit | Reply | 
Mon
2016.08.08
02:20

こすもす #B7q/.fmY

URL

そうそう深いなのよ。不快なんてよぎりももしなかった。知らず知らずに不条理を感じるからついつい嫌なことには目をつむり逃げまくって自分の中で狭くても快適な空間を作って息を吸ってる部分が多いかもの私。色々感じるのよ〜。
この作家さんの小公女に似ている作品、、、どこまで不運が続くの?これでもか!
その結末から悲しみ、不幸を嘆きそして読んだ自分は私はまだまだ幸せなんだわと答えをついつい見つけてしまう?なんでもハッピーエンドは実は本当の心の震えはない?マッチ売りの少女は夢を見ながら微笑んで天に召されるのはきっとすごいハーピーエンドなのね。

Edit | Reply | 
Mon
2016.08.08
02:31

こすもす #B7q/.fmY

URL

最期の苦しみを救える。そうか〜究極のハッピーエンドだったのですね。
元気な時は死によって解放されるのはしたくない、してもらいたくないと普通におもうけど
あってもいいわね。

後はお察しください。ズボラより。

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Mon
2016.08.08
15:34

amida #.FHqww6E

URL

あはは・・やっぱりね~~。のこすんもすん。

が、いいところ突いてます。まさに。<不快>のストーリーこそが
現実。世の中、ハッピーエンドなんて、殆どありえないじゃないですか?
と、言うよりも、目をつむらいないと、いやな事が目に入りすぎる。
ふふっ・・。

あのですね。例の赤頭巾ちゃんも、シンデレラも、実はオリジナルは
究極に残酷物語だったりするじゃないですか?
日本の舌きりすずめだって、桃太郎だって・・
確かCMにもありましたが、遠く離れた島でドンチャン
騒ぎしながら、人間とは違う鬼の規準で平和に暮らしていた
鬼ヶ島(名前からして、そのもの)に住んでいた鬼のところに
わざわざ、非常に少ない報酬(殆ど搾取)釣った家来達を
引き連れて乗り込み、皆殺し・・って、
あれほど、ひどい物語って無いんじゃないかと思いますね。
おじぃさんと。おばぁさん。いったいどんな育て方をしたんだ。
と、今なら言いたいくらいですよ。




Edit | Reply | 
Mon
2016.08.08
15:38

amida #.FHqww6E

URL

ある程度の年齢になって、自分の最後が、このままいけると
思える方って、ホント。無茶苦茶恵まれていると思いますね。

今の世の中、自分の先行きほど、怖いものない。と
思っている方、言わないだけで、結構多いんじゃないでしょうか?

私も良人も、真面目に、真剣に、冗談抜きで
合法化されているスイス行きを範疇に入れて考えてますからね。

(ご存知とは思いますが、スイスは、安楽死が合法化されてます)

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